睡眠について理解しょう
床に入ってしばらくすると、脳は睡眠の状態に入ります。上に示す脳波検査による睡眠ステージで、睡眠は緑で表示されているノンレム睡眠と赤で表示されるレム睡眠に区別されます。初めに起きるのはノンレム睡眠です。その後、約90分してレム睡眠が起きます。レム睡眠が終わるとノンレム睡眠が起きて、またレム睡眠が起きます。レム睡眠から、次のレム睡眠までの間隔は約80~110分です。睡眠中には、ノンレム睡眠が起きてレム睡眠が起きるという基本的パターンを数回繰り返します。ノンレム睡眠は、脳がお休みする時間です。特に初めの二回のノンレム睡眠は重要で、睡眠にはいって約四時間の間に、昼間酸欠状態で働いている脳はたくさんの酸素を取り込んで回復するのです。よって、この四時間にしっかりと深い眠りに入っていないと、朝起きた時に頭がすっきりしないで、今日も一日頑張ろうという活力がわいてきません。寝る子は育つといいますが、この二回のノンレム睡眠の時間には成長ホルモンが分泌され、発育盛りの子供の成長にとっては大切な時間です。成長ホルモンには壊れたDNAを修復するという機能や、免疫力を高めて病気からの回復にも大きな役割を果たしています。レム睡眠は、全身の筋肉がお休みする時間で、脳では記憶の蓄積がなされます。自律神経系を考えると、昼間は交感神経系が優位に活性化されます。いわゆる、戦闘モードです。瞳孔は開き、心臓はドキドキして、身体の活動性が高まります。夜は、交感神経系に代わって副交感神経系の活動が高まります。戦闘モードから待機(お休み)モードに変わり、瞳孔は縮小して心臓の拍動は減少してその変動は小さくなります。正常では、午前二時~四時の間に血圧が最低となります。
いびき・無呼吸のメカニズムを理解しよう
寝ている時、ベロは上あごにくっついています。いびきは、のどちんこの周りの粘膜の振動で発生します。鼻をつまんで大きく口を開けて息をする時、のどちんこの周りが激しく振動して音がするでしょう、それがいびきです。鼻呼吸が障害されて口呼吸しているときにおきます。無呼吸は、多くの場合、舌根(ベロの奥)がのどの奥に落ち込んで気道を閉塞することで起きます。いびきをかいてきた男の人が40歳ぐらいになって肥満になリ、口呼吸をする時、肉がついて大きくなったベロがのどの方に落ち込んで気道を閉塞して無呼吸となります。また、正常の人でも、レム睡眠では下あごについてベロを前にひぱっているオトガイ舌筋がお休みしてしまうので、舌根がのどの奥に落ち込み、気道を閉塞し無呼吸が起きやすくなります。また、年を取るとオトガイ舌筋が弱ってきて、無呼吸になりやすくなります。治療の対象となるのは、無呼吸の程度、つまり酸欠になっている程度で決まります。
睡眠検査についてひとこと
いびき・無呼吸の診断には、睡眠検査が不可欠ですが、果たして、最初から入院しての終夜睡眠ポリグラフィー検査が必要でしょうか。狭くて固い病院のベッドで、顔中に取り付けられた電極のコードを気にしながら、寝返りも打てず一夜を過ごすことで、本当の睡眠中の無呼吸がわかるとは考えられないのです。検査が終わって、患者さんが口々に言うのは、緊張して眠れなかった、ベッドが固くて腰が痛くなった云々・・。睡眠検査の基本は、在宅(自分の家)で行う睡眠検査であろうと思っています。使い慣れた枕と布団(ベッド)の上で、どちらにでも寝返りが打てる状態でリラックスして検査すべきなのです。いびき・無呼吸の検査はそれで十分なのですが、睡眠中の体位の記録は大切です。もちろん、ナルコレプシーなどの睡眠障害を診断するには、入院しての終夜睡眠ポリグラフィーが必要です。当院は、簡易睡眠検査を六台、終夜睡眠ポリグラフィー検査装置を二台有しています。
子供のいびき・無呼吸、それを治すのは親の責任
夜中にいびきをかいているのは耳をそばだてて聞いていればわかるでしょう。しかし、いびきが時々止まっているときにはそっと寝室を覗いてください。横向きになっているか腹ばいになっているかをしっかり観察してください。こどもの無呼吸の症状は、朝寝起きが悪くてボーッとしている、昼間落ち着きがなくじっとしておられない、乗り物(車や電車)に乗るとすぐ寝てしまう等、変わったところでは,おねしょが一向に治らない、成長ホルモンの分泌障害による低身長なども無呼吸と関係していることがあります。無呼吸があると、胸の中央がへこんでくることがあり漏斗胸といわれる状態ですから、わが子と風呂に入るときに観察してください。朝起きるといつもシーツがぐしゃぐしゃになっていてパジャマがはだけているときは、夜中に苦しくて寝返りをうっている証拠かもしれません。幼児のいびき・無呼吸は、多くの場合にはアレルギー性鼻炎や副鼻腔炎による、夜間の鼻詰まりが関係していることが多く、まず三か月間しっかり鼻の治療をしてもらいます、多くの場合にはこれで良くなることが多いです。それでも治らなければ、アデノイドと口蓋扁桃をとることを検討します。アデノイドは、五歳ぐらいまでは小さくなることがあるのでそれまでは様子をみることが多いです。手術適応年齢は、原則として六歳以上としています。それまで、口を開けて大きないびきをかいていた子供が、手術後には、いびきもなく静かに眠っていることに、親はびっくりしています。平成28年4月に、手術した6歳の男の子ですが、術後二週間でおねしょがなくなったと喜ばれました。そういう効果もあり、医学的に立証されています。手術をするかどうかを決めるのは、
親の決断にゆだねられます。無呼吸が子供の知能の発育に悪影響を与えているという報告もありますので、子供の将来のために、しっかりと情報と収集して責任をもって対応してください。
たかがいびき、されどいびき
いびきと寝息は区別しましょう。口を開けて息をしているときのどちんこの周りの粘膜が振動します。このとき発生する音がいびきです。いびきの病態は、何らかの原因で鼻呼吸ができなくなり口呼吸することです。鼻呼吸の障害の原因には、アレルギー性鼻炎、肥厚性鼻炎、鼻中隔弯曲症、鼻茸、慢性副鼻腔炎、アデノイドなどがあります。いびきの根治的治療は、鼻呼吸を改善させて口呼吸をしないようにする手術です。これに対して、いびきの音を小さくする姑息的手術があります。前者には、レーザーによる下鼻甲介粘膜焼灼術、粘膜下下鼻甲介骨切除術や鼻中隔矯正術、鼻茸摘出術などがあります。後者には、レーザー使用軟口蓋形成術や口蓋扁桃摘出術を併用した口蓋形成術などがあります。当院では、鼻の手術やレーザー使用軟口蓋形成術は、日帰り手術で土曜日の午後に行っています。レーザー使用軟口蓋形成術は、自由診療として高額を請求している医療機関がありますが、れっきとした健康保険が適応される手術です。この手術では2~3年するといびきが再発することが多いので、現在は症例を厳選しておこなっています。口蓋扁桃摘出術を併用した軟口蓋形成術は、一泊入院(日曜日入院月曜日退院)の全身麻酔下の手術で行っています。いびきを完全に治したいという患者さんでは、全身麻酔下で鼻呼吸の改善手術と口蓋扁桃摘出術を併用した軟口蓋形成術を同時に行うことがあります。無呼吸のある患者さんでは鼻呼吸の改善手術を行ったのち、口腔内装具をつけることがありますが、口腔内装具を装用すると口呼吸をしなくなるのでいびきも改善することが多いようです。アメリカでは、いびきは離婚の原因の一つです。最近では、日本でも、定年退職後におかあさんにいびきを指摘されて受診するおとうさんが増えてきました。夫婦円満に楽しく老後を過ごすために、早目に対処することをお勧めします.
根治的ないびきの治療は、外科的治療で鼻呼吸を改善させて、口呼吸をしないようにすることです。ただし、鼻アレルギーの場合には、薬での治療でも可能なことがあります。
マウスピースによる治療も、口呼吸をなくすという意味では、有効な治療ですが、鼻呼吸ができていないと苦しくてマウスピースを外してしまうことが多いため、先だって、鼻呼吸を改善しておく必要があります。また、直接歯科医院に行って、マウスピースの作成を依頼すると、健康保険が適応とならず自費での作成となります。いびきをかく人は、多少無呼吸があることが多いですから、医療機関で先に睡眠検査をして、無呼吸治療のためのマウスピース作成ということで、医科から歯科へ作成依頼のための診療情報提供書を持っていけば、健康保険対応でマウスピースを安く作ることができます。
女性のいびきは中高年に突然おきる
女性のいびきは、50歳ごろから急に増加します。その原因の一つは、更年期に伴う女性ホルモンの減少です。女性ホルモンの一つであるプロゲステロン(黄体刺激ホルモン)には、呼吸中枢を刺激する作用があって気道を拡張させるといわれています。このホルモンが減少すると、気道の狭窄が起きていびきが生じると考えられています。しかし、プロゲステロンを補充しても改善しないことから、加齢による組織のコラーゲンの減少による粘膜のたるみなどほかの要因の関与が考えられています。マウスピースの装用が効果的なことがあります。もう一つの原因は、中高年女性に好発する甲状腺機能低下症です。甲状腺ホルモンが減少すると、疲れやすさ、皮膚の乾燥、眠気などの症状が起きますが、むくみも重要な症状です。むくみは、全身性に起きるので、気道に起きれば気道狭窄をきたしていびきを生じます。舌がむくむと、舌の縁に歯形がのこるようになり、歯圧痕といわれています。舌全体がむくむと巨舌症といわれ、大きな舌がのどに落ち込むと気道をふさぐので無呼吸が生じます。甲状腺ホルモンを投与されると、いびきや無呼吸も改善することが多いですが、舌むくみが取れないで無呼吸が改善しない時は、無呼吸の治療が必要となります。
その無呼吸ほおっておくと死を招く
無呼吸がいろんな生命の危機に関係していることが分かってきました。睡眠時無呼吸症候群の主たる症状は、日中の耐え難い眠気です。あなたの車が田んぼに落ちるのは仕方ないと笑って済ませますが、通学途中の児童の列に突っ込んで人身事故を起こしたのでは決して笑って済まされないことです。夜間の無呼吸は降圧剤でコントロールできない高血圧をきたし早朝高血圧による脳出血、不整脈、心筋梗塞や脳梗塞等あげればきりがありません。無呼吸は確かにあなたの寿命を縮めているのです。無呼吸の治療三本柱は、口腔内装具、手術、CPAPですが、いずれの治療もその必要条件は、鼻呼吸の改善です。軽症~中等症の患者には口腔内装具による治療を勧めています。中等症~重症の患者にはCPAPによる治療を勧めています。口蓋扁桃が大きくて、軽症~中等症の患者には手術を行うことがあり、症例を厳選すれば有効な治療法です。口腔内装具は歯科医院に紹介状を書いて作成を依頼しており、作成後にはその装用効果を確認しています。当院では、すべての治療に精通しているので、患者さんにとって、最適な治療法を選択してあげることができると思っています。
CPAP治療について、あなた満足していますか
当院に来られる患者さんには、一泊入院して検査をしたけれど、治療法がないから痩せるしかないと言われたとって見放された患者が少なくありません。おそらく、CPAPを使用できる無呼吸の回数による適応基準を満たさなかったのでしょうが、診察すると、鼻中隔の弯曲、アレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎による鼻茸、両側口蓋扁桃肥大や小さい下あごなどCPAP以外の治療で何とかなりそうな患者も多いです。あなたは、睡眠検査の結果の説明をちゃんと理解して、CPAP治療を継続していますか。そんなに肥満でもないのに、どこが悪くて息がが止まっているのだろう。どの位悪いのだろう。では、どうしたら治るのだろうか、CPAP以外の治療法はないのだろうか。すべてを理解し納得して治療を受けていますか。床に入るとすぐ寝てしまう人は、苦労なくCPAP
を使える人が多いです、その理由は、日ごろの無呼吸がひどいので脳がすぐ寝てしまうからです。しかし、寝入りがよいのと、良い睡眠がとれているのとは全く別のことと理解してください。睡眠に入って最低四時間は無呼吸なく目覚めることなく深い眠りに入っていないと、器械を使っている効果が十分発揮できません。疲れてCPAPをつけずに寝てしまうとか、寝るのが遅くて四時間の睡眠をとれないひとは、自分で睡眠環境を整えるしかありません。寝ているうちに、知らずにマスクを外していて、四時間持続してCPAPを使えていない人、それは問題です。器械が記録ている使用情報からデータをダウンロードして評価することができれば、マスクをいつ、どれくらいの圧力がかかっている時に外しているかがわかります。そして、大切なことは、その原因が何かを評価して改善させることです。鼻呼吸の障害による作動圧の急上昇やレム睡眠で眠りが浅くなっていることなどが原因となっていることがあります。時に、点鼻液の使用で鼻閉を改善させることが有効なことがありますが、下鼻甲介粘膜の肥厚や鼻中隔弯曲がある場合には鼻呼吸を改善する手術が必要になるかもしれません。CPAPの機種もいくつかあり特性や性能が同じではありませんからから、あなたに合った特性を持った機種に変更することを検討する必要があるかもしれません。使い心地の良いマスクの選択や鼻の乾燥や冬季のマスクやホースの結露を軽減させるための加湿器の使用もあなたが要求できる権利です。使用にあたって、医者から一方的に提供される環境に余んじることなく、いろんな情報を得て、あなたにとって最適な環境を積極的に要求していくべきなのです。高い治療費を支払っているのですから、使えなければお金をどぶに捨てているようなものです。当院では、6~9か月に一回、CPAP
を使用時とCPAP未使用時の睡眠検査を在宅で行って、CPAPの効果を確認するとともに、現在の無呼吸の状況を確認し評価しています。CAPAは一生つけておくものでしょうか、私はそうでないと思っています。あなただって、若いころから無呼吸があったわけではないでしょう。当院では、平成28年三月時点で約270人の患者にCPAP
を貸し出していますが、毎年5~6人は器械から離脱しています。やはり、離脱の基本はなんといっても減量です。毎月のCPAP効果確認にあたっては、眠気のアンケートと身長・体重を記入してもらいます。使用状況を記録してるメモリーカードからデータをダウンロードして印刷して患者さんに渡しています。確認する項目は、無呼吸低呼吸指数、4時間使用できているのが70%以上あるか、95%の作動圧がどれくらいあるか、95%のリークを示す圧力がどれくらいあるか、直近の使用圧力のグラフ等を検討して、患者さんに問題点と離脱に対してのアドバイスしています。CPAPからの離脱の指標を決めて、それに向かって、日々頑張ってもらっています。オトガイ舌筋の強化を指導て、舌の沈下を軽減する指導を行っています。最後に、最大圧10cmH2Oの二人の患者の圧力曲線を提示します。上の患者は、レム睡眠で周期的に圧力が上がっています。舌の筋肉を鍛えて、あと少し減量すれば、最低でも口腔内装具をつけてCPAPからの離脱が可能になると思います。下の患者は、肥満でのど全体が狭窄しているので、圧力に変動はなく、舌の筋肉を鍛えるとともにまだまだ減量する必要があります。二重あごと腹回りの脂肪を何とかしましょうといっています。圧力パラメーターを毎月提示することで、減量に伴って視覚的に圧の改善を自覚するようになれば、離脱へのゴールは確実に近づいてきます。
みずほの耳鼻咽喉科では、苦しくてCPAPを使えないという患者を決して見捨てません。そして、あなたも昔は無呼吸ではなかったはずです、だから、CPAPからの離脱を最終目標にして、患者さんと二人三脚で努力しています。CPAP使用料を、ほかに有効に使ってほしいと思っています。