めまいの診療にあたって大切な事
めまいで脳神経外科を最初に受診する方が多いようですが、脳出血脳梗塞などの脳血管障害や脳腫瘍による生命の危機をきたす可能性がある疾患がないことを否定しておくことは必要ですから、間違った行為ではありません。しかし、脳神経外科医に異常ありませんと言われても、それは、わたしに分かる病気ではありませんといわれているだけで、あなたは、めまいを起こす何らかの病気なのです。実際、めまいを起こす病気の中でCTやMRIによる画像診断でわかるのは0.03%以下と言われています。めまいの原因となる病気は、高血圧、低血圧や不整脈などの循環器の病気や貧血を起こす血液や消化管腎臓の病気、ストレスなどによる自律神経障害など多くの臓器、診療科にわたっています。しかし、現実はめまいを専門とする医者は少なく、耳鼻咽喉科医でさえめまいの診療を得意とするものが少ないのが現状です。まして内科医に至っては、良性発作性頭位めまい症とかメニエール病とかそれなりの病名をつけていますが、患者さんから病状の詳細を聞いてみるとその病気ではないと思われることが多いです。耳からくるめまいは、その原因としては一番多いです。耳の機能には、音を聞く聴覚機能と体のバランスをとる平衡機能とがあります。この平衡感覚が障害されるとめまい(内耳性めまい)を引き起こします。めまいの鑑別診断(原因を探っていく過程)を行っていくのには、難聴があるかどうかで大別して、原因を探ってゆく操作がプロトコール化されて分かりやすい方法です。そこで、脳神経外科の先生は、一度耳鼻咽喉科で診てもらいなさいと勧めることが多いようです。もう二週間もめまいはないのですがと言って受診する患者さんが多いのですが、しっかりした診断をつけるためには、めまいが起きて可及的に早く受診してもらいたいものです。耳鼻咽喉科では、聴力を測定して、足踏み検査(目をつぶって足踏みをしてもらう)、眼振検査(目の異常な動きを見る検査)をして神経学的異常を発見して、診断に役立てますが、めまいがなくなってしばらくたっていると診断の手掛かりとなる神経学的所見がすでになくなってしまっていることが多いのです。よって、その病気である可能性が高いという診断になってしまうのです。
めまいはその正確な問診で60~70%は診断にいたるとわれていますので、その状況を患者さん自身が正確に記録することが一番大切です。今回のめまいについて、いつ(何月何日何時ごろ)、何をしているとき(朝起き上がるとき、急に後ろを振り向いたとき、何もしていない時など)、どんなめまい、くるくる回る(できれば時計回りか反時計回りか)、ふわふわした感じ、それとも目の前が真っ暗になった、そのめまいはどれくらいの長さで続いたのか、ほかに異常はなかったか、手足がしびれた、ろれつが回らなくなった等を、過去に、めまいがあればその時のことも、経時的に、できるだけ詳細に記録して持参していただけると診断への大きな手掛かりになります。次に大切なことは、患者さんから必要な情報を聞き取ることができる看護師や看護助手を、医者自ら日頃から教育し訓練しておくことです。最後に、めまいの多くは、正確な診断がなされなくても、投薬を受けてそのうち治ってしまくことが多いのですが、繰り返すめまいやめまい以外の症状を伴っているものについては、一度しっかりとしためまいの診断ができる医療機関を受診してください。
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頭位めまい症
頭の位置を変えると起きるめまいを頭位めまい症といっています。朝床から起き上がるとき、急に振り向いたとき、急に上を向いたときなどに起きるめまいです。原因は主に二つ、耳が原因の良性発作性頭位めまい症と首の筋肉や骨(頸椎)が原因の頸性めまい症です。両者とも難聴をきたすことはありません。
良性発作性頭位めまい症
耳が原因のめまいで最多、めまいの原因でも一番多い疾患です。平衡器官には、体の位置を感じる平衡斑と回転感覚を感じる三半規管(半規管は一側に三つあるので三半規管)があります。良性発作性頭位めまい症の原因は、平衡斑にのっている小さな耳石がずれ落ちてしまって、三半規管のなかに迷入してしまったことで起きると考えられています。激しく頭位を変えると、三半規管のなかの液体(内リンパ)に流れが生じて、耳石が動きます、クプラと呼ばれる感覚器に耳石がぶつかって激しいめまいを生じます。よって、めまいは回転性の激しいめまいですが、耳石がクプラにぶつかるのは一回だけですから、そのめまいの持続時間は10秒以下です。何回も同じ動作を繰り返すとめまいは弱くなり、ついには起きなくなります。よって、留意することは頭を動かすときには内リンパの流れが生じないように、なるべくゆっくりすることです。しっかりした問診をして、眼振検査をすると診断がつくことが多いです。しかし、耳石は2~3週間すると溶けてしまうので、医療機関にかかることなく自然と回復している方も多いのではないかと思います。左・右、さらに三つある半規管のどこか、その責任部位を確定すれば、耳石置換法というずれ落ちた耳石をもとの平衡斑に戻す処置が有効ですが、詳細な眼振の解析が必要で、よほどめまいを専門としている医者でなければ責任部位の特定は困難です。場所の特定ができればエプリー法やセモン法などの方法がありますが、やってみて症状が悪化することはありませんから検索してとりあえず試してみてもよいかもしれません。当院では、東邦医大佐倉病院式良性発作性頭位めまい症の運動療法をコピーして渡していますが、興味ある方は検索して行ってみてください。
頸性めまい症
良性に対して悪性発作性頭位めまい症と呼ばれることもありますが、心配しなくてはならないような悪性疾患ではありません。肩こりによる頸の交感神経の過緊張や頸椎の変形による椎骨脳底動脈の血流障害などによって起きると考えられています。耳鳴りをきたすことはありますが、難聴をきたすことはありません。回転性のめまいを訴えることが多いですが、その持続時間は数十分から数時間に及びます。たいていのめまいは、目をつぶると少し良くなることが多いのですが、頸性めまいでは逆に悪くなることが多くみられます。時には、ふわふわした感じというめまいのこともあります。めまい症状がひどければ周りのものがくるくる回リ時にはいてしまうことがありますが、症状が軽ければ体がフワフワしていると理解していただければよいと思います。詳細な問診と眼振検査(坐位で首を捻転するとすると眼振が起きる)、首の骨のレントゲン写真、時に首の血管のMRAを撮ったりして診断します。重いものを持った後で肩や首が痛くなり、急にめまいが生じるという急性のものもあるのですが、慢性的な姿勢の悪さなどが原因となっていることが多く、一種の生活習慣病と考えてください。めまいは、あなたの体がこれ以上酷使すると体が壊れてしまうとあなたに警告を発しているサインなのです。後に述べるストレートネックも頸性めまいの原因の一つです。当院では、しっかりした診断をつけて、投薬と複合電気刺激装置による経絡治療を行い、併せて生活習慣改善のアドバイスをしています。
何もしていなくても突然起きる回転性めまい
難聴を伴うものに、メニエール病、突発性難聴、稀ですが外リンパ漏などがあります。難聴をきたさないものに、前庭神経炎や脳梗塞、脳出血などによる脳病変があります。
メニエール病
メニエール病の特徴は、低音域の感音難聴がおきるので、多くの場合に、めまい発作が起きる前に耳のふさがった感じや低音性の耳鳴りがおきて、そのあとでぐるぐる回る激しいめまいが生じます。患者の80%はぐるぐる回るめまい、20%はフワフワした感じのめまいを訴えます。このちがいは、めまい症状がひどいかひどくないかによっています。前日の夕方にふさがった感じが起きて、よく朝起きようとするとぐるぐるまわるめまいで発症することが多いです。ぐるぐる回るめまいは、20分から2時間持続します。診断には、聴力検査が不可欠ですから、耳鼻咽喉科を受診してください。問診をとり、聴力検査をして、眼振検査をすれば、たいていの耳鼻咽喉科医は診断できます。めまいが起きてすぐは、耳がふさがっている方向に周りのものが回っていて、これを刺激性眼振といいます。経過とともに、眼振検査で、眼振の向きが変わります、これを麻痺性眼振と呼んでいます。自覚的なめまいが改善してくると、難聴も改善して、耳のふさがった感じと耳鳴りも消失します。メニエール病の確定診断には繰り返すという基準があり、初回発作で、メニエール病と診断することはできません、あくまでメニエール病の疑いです。発作は、数か月後、1~2年後に再発することが多く、その時初めて、メニエール病と診断されるのです。メニエール病は、ストレスによって起きるといわれていますが、みみと鼻の奥をつないでいる耳管という管が詰まって、中耳腔が陰圧になることが発症と関係しているという報告があり、聴力が改善しても耳のふさがった感じが持続する患者が多く、最後に耳管の狭窄がしばらく続くと考えていますので、当院では耳管通気を行っています。メニエール病は、めまいを起こす病気と考えられていますが、その病気の本質は、めまいをおこしながら難聴が進行する病気です。ちゃんと治療しないと、発作の間隔が短くなり、初めは聴力はもとに戻るのですが、しだいに聴力は戻らなくなり、最悪の場合には失聴にいたります。発作を繰り返さないように、きちんと睡眠をとってストレスをためない生活を送ってください。鼓膜にチューブを挿入して、中耳腔の陰圧を防止することで、発作の反復を予防することが有効という報告があり、当院では、必要な患者さんには鼓膜換気チューブ挿入術を行っています。若い患者さんには水利療法を勧めています。
突発性難聴
突然耳が聞こえなくなります。原因不明です。難聴は中~高温を中心に起きますが、すべての音域で障害されることもあります。回転性のめまいをきたしますが、難聴のない方向にものがまわっています。めまいを伴う患者では、回復の予後が悪いと言われています。発症したらなる早く耳鼻咽喉科を受診してください。発症して二週間以内に治療を開始しないと予後が悪いといわれています。当院では、内耳の循環改善薬、ステロイド、ビタミンB12を中心に投薬をおこなっていますが、治療に反応が悪い患者には、鼓室内ステロイド注入療法を行っています。最初からまったく聞こえない患者さんや糖尿病がありステロイドが使用できない患者さんには、近脳神経外科医院と提携して治療初期から高気圧酸素療法を取り入れています。
前庭神経炎
上気道の炎症,俗にいわれている風邪のウイルスが、平衡感覚をつかさどる前庭神経にくっついて起きるといわれています。めまい発症の一週間ぐらい前に風邪をひいていることが多いようです。激しい回転性のめまいをきたしますが、難聴はみられません。麻痺性眼振で、障害を受けていない耳の方向に眼振がみられて、その方向に周りのものが回っています。めまいは徐々に改善するのですが、早くて1~2週間を要します。前庭神経の反応を見るために、温度刺激眼振検査(カロリックテスト)という耳の中に水を入れて眼振を起こす検査が必要です。完全に元の状態に回復することもありますが、回復の程度は様々で、中には完全に回復せず一か月以上たってもフワフワした感じが持続することもあります。暗い所やボーっと歩いているとまっすぐ歩けずに障害された方によってしまいます。眼が真すぐ歩けるように調節してくれようになりますが、あまり足元を見ていると寄ってしまうので、すこし遠くの指標にを見据えてそこに向かって歩くようにしましょうと指導しています。これは、もうリハビリです。麻痺が両側に起きることがあり、動揺視(ジャンブリング)といわれる、歩くと物が弾んで見える現象が起きます。これ大変で、広いところを目標に向かってまっすぐ歩くリハビリに頑張ってもらいます。次第に慣れてきますが、視野は弾んだままののです。
脳病変
延髄や小脳の出血や梗塞によって起きます。ときに耳鳴りを認めますが難聴はみられません。回転性のめまいがあり純回旋性の
眼振が認められます。めまいの持続時間は一般的に2~3時間、短い場合では20~30分です。物が二重に見えたり、手が震えて力が入らない、しゃべることができなくなりろれつが回らなくなるなどの脳神経の症状があります。ろれつが回らなくなったら、ためらうことなく、至急救急車を呼んでください。そのほかに、一過性脳虚血発作といわれている脳血管障害がありますが、一般的には24時間以内に回復します。しかし、発症時に、脳梗塞や脳出血と鑑別することは困難ですから、この場合にも、救急車をお願いします。
ストレートネック最近、PCで仕事をする人が増えてきました、長時間ディスプレイを見て仕事しています。頭を前に傾けた姿勢を取り続けています。頭の重さは、中玉から大玉スイカ一個分の重さがあるのです。中腰になって、長時間スイカを持ち続けると腰が痛くなるでしょう。首の後ろの筋肉は、本来首の骨をしなやかに後屈させて、あなたの頭を支えています。しかし、頭を前かがみにしていると、首の後ろの筋肉は、頭が前に落ちないように引っ張り上げて支え続けているのです。しかも長時間、来る日も来る日もこのような姿勢をしていると、首の筋肉は、首の骨の後屈を保てなくなって頭を支えられなくなっているのです。もう限界だとあなたに訴えたくて、とうとうめまい発作という手段に出たのです。ストライキを起こしたのです。これが、ストレートネックと呼ばれている症候群で、最近急増しています。一種の職業病です。昔キーパンチャー症候群ともいわれていましたし、最近では、スマホを長時間見ている若者にも同様な現象がみられているのでスマホ症候群とも呼ばれています。症状は、後頚部から後頭部にかけてのいたみ、肩こり、めまい、吐き気、手のしびれなどいろんな症状が現れます。めまいは、朝床から起き上がるときや急に振り向いたときなと、急に頭を動かすと起きることが多いようです。めまいは、ぐるぐる回るものから、ふらつきなどいろいろです。基本的には、首の弯曲を回復させることです。首の下に、ロール状にしたバスタオルをおいて一日二回5分くらい横になってみましょう。この際、頭が床につかないようにバスタオルを太めに巻いてください。頭の重さが自然と首の弯曲を回復させてくれます。最も大切なことは、不自然な姿勢、生活習慣自体を変える必要があります。一時間に一回ぐらいは、頭を上げて、まっすぐ前を向きましょう、そして首を回したり頭を左右に曲げてストレッチしましう。散歩を取り入れて、腕を大きく振って肩を回すよう比して歩きましょう。当院では、複合電気刺激装置による経絡治療を行っています。
低血圧血圧が下がり過ぎると、脳に行く血液が減少してめまいが起きます。多くは、ふわふわした感じで、ときにたっていられなくなり失神発作を起こします。動悸や息切れを伴うことがあります。低血圧の人は、朝が苦手で夕方から夜になると調子よくなります。高血圧の薬が変わった時から起きることがあり、薬が効きすぎているのかもしれませんので主治医の先生に相談してみてください。思春期の女性によくみられる起立性低血圧では、急に立ち上がると心臓が空回りして収縮期血圧が低下し、脳に行く血液が減少します。シェロングテストという検査で診断します。当院では、血圧を調整する薬を投与し、自律神経を鍛える訓練のパンフレットを渡して自宅で訓練してもらっています。高齢者では、いろんな疾患で立ちくらみが起きます。パーキンソや更年期障害でも起立性低血圧が起きます。不整脈や心臓弁の障害でも、脳血流の減少が起きてめまいが起きます。糖尿病でも起きます。主治医の先生にしっかり相談してください。片頭痛めまい患者の4割が片頭痛を持っている、逆に、片頭痛患者の2割に頭痛の際にめまい症状があるという報告があります。いくつかのタイプがあるようです。めまいが頭痛の前兆としておき、頭痛が起きるとめまいは消失するタイプや頭痛とめまいが同時に起きるタイプなどがあるようです。片頭痛は脳血管が拡張することによって血管の周囲の神経が広げられてられて頭痛が生じ、その血管の拡張が脳の血流を乱しめまいが生じると考えられています。頭痛とめまいが起きた日をしっかり記録しておりことが大切です。女性では、生理と関係して起きることが多いので、しっかり記録しておいてください。頭痛発作時に飲む特効薬がありますが、予防的に長期にわたって飲む場合にはベータ―阻害薬が有効なことがあります。更年期障害更年期とは女性ホルモンが減少して閉経する前後の約10年の期間を指します。この時期は、自律神経の乱れから、ほてり、動悸、めまい、抑うつなど様々な症状が現れます。ほとんどは、ふわふわした感じのめまいで長く繰り返し、肩や首のこりを伴うことがあります。ぐるぐる回るめまいをきたすこともあり、軽い耳鳴りと伴うことがあります。更年期障害に伴うめまいは、時が経つと自然と回復することが多いですが、症状がひどいようならば受診してください。更年期障害は、女性の病気と考えられてきましたが、近年では、男性にも起きることがわかってきて男性更年期障害と言われています。当院では、主に漢方薬で治療しています。