嗅覚障害と味覚障害

1.嗅覚障害と味覚障害を治療する心得と覚悟

風邪を引いた後で鼻が詰まって突然臭いが分からなくなることを多くの人は経験しています。

それが1~2週間以上続くと不安になることでしょう。高齢化が進み、生活の質の向上が追及されるようになっています。その人が臭いを判らずに苦しんでいることを傍から見ている人はその不自由を察することは全くできないのです。

匂いが障害されると、味覚も障害されることもよくあることです。美味しい料理を食べても、自分だけ、匂いも味も判らないことがどんなに悲しいことかを十分理解してあげて、治療に当たることが嗅覚障害を診断し治療する医者として大切なことです。

臭いに関する神経細胞(嗅神経細胞)は、一か月周期で再生するといわれていますので、時間はかかりますが、決して嗅覚の回復を諦めることはありません。最近の研究では、嗅覚障害が認知症と関係しているといわれており、嗅覚障害を早期に発見して、その治療をすることが認知症発生と進行を防止するために重要といわれています。

2.嗅覚障害の治療

嗅覚障害が起きたら、できるだけ早く近くの耳鼻咽喉科を受診してください。なぜ耳鼻科というと嗅覚障害の原因の多くは、鼻の病気が関係しているからです。

嗅覚障害の治療は、検査によるその原因の診断に基づいて、牡蠣・レバーなどの亜鉛の摂取による食生活の改善、薬による治療、鼻洗浄などの保存的局所治療、嗅細胞を再生させるリハビリ療法、そして最終的には手術療法があり、当院では、嗅覚障害回復に関するあらゆる治療に対応しています。

嗅覚障害の回復を決してあきらめないで、一緒に努力しましょう。

時間のある方や興味のある方は、下記の記事を参考にしてください。

3.嗅覚障害の病態と疾患

嗅覚障害の病態は、

  • ①吸性嗅覚障害(身の粘膜の炎症で良いの成分である素が臭いを感じる細胞まで到達しない状態)
  • ②末梢神経性嗅覚障害(臭いを感じる嗅神経が障害される状態)
  • ③中枢性嗅覚障害(臭いを処理する脳細胞が障害されている状態)

に分類されます。そして、それぞれの病態を引き起こす原因疾患があります。

  • ①呼吸性嗅覚障害:鼻の粘膜の腫れをきたす、感冒後(ウイルス感染後)、アレルギー性鼻炎、鼻茸・副鼻腔炎(蓄膿症)など
  • ②末梢神経性嗅覚障害:感冒後(ウイルス感染後)、頭部外傷や神経を傷害する薬物の吸入など
  • ③中枢性嗅覚障害:アルツハイマー病、パーキンソン病や脳の病気など

4.新型コロナ感染症

最近話題となった新型コロナ感染症では、感染後に嗅覚障害をきたすことがありますが、その原因の8~9割は呼吸性嗅覚障害であり、1か月程度で回復します。

しかし、1~2割には末梢神経性嗅覚障害が起きて、後遺症として嗅覚障害が残ります。後遺症としての嗅覚障害は、時間とともに回復しますが、回復に半年時に一年以上を要することもありますが、最近の報告では三年を経過すればすべてが回復しているという報告がありますから、根気強く治療しましょう。

5.好酸球性副鼻腔炎

慢性副鼻腔炎(蓄膿症)による嗅覚障害では7割は改善しますが、再発傾向が大きい鼻茸と、時にぜんそくや中耳炎を伴う好酸球性副鼻腔炎の嗅覚障害は難治性です。慢性副鼻腔炎では両側性にすべての副鼻腔に病変があるのに対して、好酸球副鼻腔炎では前頭洞や前篩骨蜂巣に集中しています。好酸球性副鼻腔炎の基本的治療はすべての副鼻腔を外科的に開放する内視鏡下鼻副鼻腔手術IV型という術式の手術がもちいれれますが、術後にステロイドを内服したりします。

再発する鼻茸と副鼻腔粘膜病変に対してデュピクセント®やヌーカラ®といった生物学的製剤が使用されるようになって治療効果が向上しましたが、高価な薬なので、確定診断をし難病申請をして経済的助成を得ることが必要です。